内部被ばく線量評価のための手法としての尿検査

今回の福島第一原発事故は、人類史上最大且つ最悪の原子力災害であり、既に緊急時の年間被ばく線量限度の上限値も、法令で定めていた100mSvから250mSvへと引き上げられています。これにより作業員の慢性期(晩発性)の健康リスクが2.5倍に増加したことに加え、危険度の高い現場での長時間作業が可能になり、予期せぬ大量の被ばくによる急性期の健康被害の可能性も高まりました。

事故収束のために現場で作業にあたる全ての作業員の安全と健康を守るための安全・衛生対策も、法令等で要請されている通常の基準以上の厳格な対応が要求されるべきです。事態の一日も早い収束のためにも、全ての作業員の命の安全と心身の健康を確保し、安心して作業に従事できる環境を確保しなければなりません。

これまで緊急作業に従事した、また、これから作業に従事する全ての作業員について、東京電力との全面的な協力・連携の下、政府の責任として、作業員の安全・安心、健康・衛生確保施策を迅速に実施すべきであると思っています。

その中で、被ばく線量測定および管理の徹底が肝要となります。
今なお、作業員の累積被ばく線量が確定していないことは大変憂慮すべき状況であり、政府は東京電力に対し、期限を決めて、全ての作業員について累積外部被ばく線量と内部被ばく線量の確定を行い、即時、政府に報告する必要があると考えます。なお、ホールボディーカウンター(WBC)を使った内部被ばく線量チェックについては、検査基準を引き上げ、①雇い入れ時、②勤務が1ヶ月を越えた時(以降、1ヶ月毎)、③累積外部被ばく線量が50ミリシーベルトを越えた時(以降、50ミリシーベルト毎)、④福島原発での作業から解除された時に必ず実施するように政府から東京電力に対し要求するべきであると思います。

以前の線量計不保持者の被ばく線量計算の徹底も重要で、特に3月中に線量計を保持せずに作業に従事した全ての作業員について、作業時間と場所を特定し、可能な限り正確な被ばく線量計算および積算が行われていることを政府の責任で確認すべきです。なお、作業に従事した現場の状況や線量計保持者との位置関係から、推定計算値に幅が生じる場合は想定しうる最大の被ばく線量を記録することが重要です。

健康管理データベースの構築についても、政府は作業員の健康管理を確保するため、全ての作業員の作業・健康情報管理を目的としたデータベースを早急に構築する必要があります。そのため、政府は3月11日以降、福島第一原発および第二原発で緊急作業に従事した全ての作業員および関係者について、万事遺漏なく、個人連絡先データおよび作業・被ばく・健康診断記録を東京電力から確保し、登録・管理していくのは当然です。なお、すでに雇用を解除された者を含む全ての作業員について、研修・教育の受講歴、作業記録、累積被ばく線量、健康診断の結果等を証明出来る「被ばく線量管理手帳」が交付されることを確保するのも当然です。

こういった取り組みを進める中で、内部被ばくの線量の測定・把握が一つの律速段階になるのは間違いありません。私が憂慮するのはホールボディーカウンター(WBC)絶対数の圧倒的な不足です。現在日本中に20台しか存在しないと聞いております。であれば、今現在出来る他の手段を考え実行すべきであるのは当然です。その中で、比較的簡便に内部被ばく線量を測定する方法があります。それは尿検査です。

私は厚生労働省・文部科学省・保安院・東京電力などに対し、本技術を紹介し、WBCでの測定値との相関を早急に調査・確認した上で有用であると判断されれば、速やかに様々な局面での内部被ばく線量測定に使用していただきよう提言しております。

以下に同技術の詳細をご紹介いたします。

内部被ばく線量評価のための手法としての尿検査について

放射性物質を体内に摂取した場合の内部被ばくに線量を評価する方法の1つとして、尿中に排泄される放射性物質の分析・定量結果から推定する方法があります。

尿中排泄について

体内に取り込んでしまった放射性物質が尿中にどのように排泄されてくるのか、放射性セシウムCs-137の経口摂取の例を図1に示します。成人の場合、摂取の翌日よりも1日遅い2日目に排泄率が最大となり、摂取量の約2%が尿中に出て来ます。その後、排泄率は下がっていきますが、元の摂取量が多ければ長期間に渡って尿中に検出することが出来ます。摂取日と採尿日との時間経過の情報があれば、摂取量に戻す換算係数が決まります。
汚染された食品等による1回だけの取り込みの場合、物理学及び生物学的半減期(実効半減期)から比較的容易に計算することができますが、例えば、3日間連続的に同じ量を摂取した場合は、図2に示すように体内残留量が重ね合わせになり、尿中排泄量も重ね合わせになります。

図1 経口摂取時の尿中排泄率変化(成人、Cs-137の場合)

図2 連続摂取時の体内残留量変化

 

尿中の放射性物質の定量法について

放射性セシウムCs-137や放射性ヨウ素I-131のようにガンマ線放出核種の場合には、採取した尿を規定の容器に入れ、ゲルマニウム半導体検出器を用いた定量分析を行います。測定条件を一定にするため、被験者の尿量としては約100mLが必要です()。この測定(測定時間5分、線量評価までを含めると1検体あたり20分程度必要。)で、尿中に含まれる核種毎の放射能濃度(Bq/mL)が決定され、1日尿量に換算した尿中排泄量(Bq/日)が算出されます。

(※)より正確な線量の評価を行うためには、1回の採尿ではなく、数日から1週間に渡って採尿し、測定する必要があります。

預託実効線量の算出について

内部被ばくの線量は、預託実効線量で表わします。ゲルマニウム半導体検出器を用いた放射能測定値から得られた尿中排泄量(Bq/日)に摂取状況を考慮した換算係数を用いて、元の摂取量を算出します。手計算では複雑であるため、放医研が開発したMONDALと呼ばれる専用のソフトウェアを用いて、摂取量の評価および預託実効線量の評価を行うことができます。

試料容器をセットしたゲルマニウム(Ge)半導体検出器

*預託実効線量(内部被ばく)と外部被ばくについて

預託実効線量とは、体内に残留する放射性物質から今後も受け続ける被ばくも含んだ実効線量のことです。従って、預託実効線量が1mSvと評価された場合、成人は50年間、17歳までの子供は70歳まで生存した場合、その合計した期間の間に被ばくする線量の総量のことです。言い換えれば、成人の場合は50年で1mSvの被ばくであるとも言えます。

他方で、外部被ばくの場合は、実際に一定の期間の内に被ばくした線量を示します。例えば、ポケット線量計等により計測し、線量が1mSvであった場合には、当該線量を既に受けたということになります。

このように、同じ1mSvでも、内部被ばくと外部被ばくでは、その意味合いが異なるので、注意が必要です。

(参考文献:民主党厚生労働部門・雇用対策ワーキングチーム『福島原発作業員の安全・健康管理問題に関する作業班』 福島原発事故収束に向けた緊急作業に従事する全ての作業員の安全・安心、健康・衛生、雇用と生活の確保に関する申し入れ 2011年6月6日)

(参考文献:放射線医学総合研究所 緊急被ばく医療研究センター 資料を引用)

吉田統彦拝

内部被ばく線量評価のための手法としての尿検査” への1件のコメント

  1. こんにちは!日光の三浦と申します、平木日光市議を応援しているものです。
    尿検査法が有るとは驚きです、世間では空気、水、食品の数値に関心が。それも分かりますが、やはり一番の関心は内部被爆(全ての内部蓄積量)による人体への影響です。被爆国日本は実績?データが有るはずなのに、専門家はその影響は現時点ではどうなるか分からないと、嘘ふいています。50年1msvなら問題なさそうですが、実態は外部被爆も含めてそれでは済まないはずです。元が断たれていない今の状況では、日本人は皆して脱出するしかない?何故外国人はあっと言う間に逃げ出したのか。本当に放射能の恐ろしさを知っているのか?唯一の被爆国民としては鈍感過ぎないでしょうか?
    我々の年代は諦めと惰性で生きていけますが、子供、妊婦やこれからの若者は、如何に生き延びるか方法を見つけてやらないと、我々の責任ではないかと。
    地震津波とは違った日本滅亡に向かって行く?
    一人老人のつぶやきで済めば良いのですが。

    尿検査方法の簡素化を早急に望むところです。

    言いたい事を言わせて貰い、申し訳有りませんでした、吉田衆議院議員様の、今後のご活躍を期待するものです。
                日光市 森友 三浦

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